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2015年6月1日05時00分
中国軍の孫建国・副総参謀長(海軍上将)は5月31日、シンガポールで演説し、中国が南シナ海で進める岩礁埋め立てや施設建設について「中国の主権の範囲内の問題だ」などと述べ、中止しない方針を表明した。埋め立ての目的については「軍事防衛の必要を満たすため」とし、軍事利用を含むことを明確に認めた。▼2面=中国を止められず
南シナ海の南沙(スプラトリー)諸島で中国が進める埋め立てをめぐっては、米国のカーター国防長官が5月27日に「即時中止」を求めた。その後、中国軍高官としては初めて、米側の中止要請には一切応じない中国の姿勢を国際会議の場で公に鮮明にした。
経済発展と軍事力増強を背景に自信をつけた中国は、米国に対しても、これまでにない強硬姿勢に踏み込んだとみられる。中国が南シナ海での実効支配の既成事実化を進め、軍事利用にもつなげていくことになれば、地域の緊張はさらに高まる。
孫氏は、日米や欧州、東南アジア諸国の軍や政府高官が参加した「アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)」(英国際戦略研究所主催、朝日新聞社など後援)に、中国代表団を率いて出席。最終日の31日、約30分間演説した。
演説では、南シナ海の埋め立てと施設建設について「駐在する作業員の生活条件を改善し、軍事防衛上の必要性を満たすためだ」と明言。そのうえで、「海上捜索や防災、気象観測、環境保護などで、一層、国際的な責任を果たすためでもある」と説明した。
南シナ海の「航行の自由」が損なわれるとの懸念に対しては、「影響を与えることはない」と主張。米国を念頭に「自らの主観に基づく無責任な発言をするのは控えるべきだ」と反発した。さらに「小国は挑発的な行為をとるべきでない」と述べ、南シナ海で領有権を争うベトナムやフィリピンなども批判した。
埋め立てや施設建設は、南シナ海での防空識別圏設定もにらんだ動きとの見方もある。孫氏は「(防空識別圏の設定は)空域の安全が脅かされるかどうか、総合的に判断して決める」と述べるにとどめた。
孫氏の講演後、中国軍幹部は記者団に対し、南沙諸島に建設中の滑走路について「軍民共用になる」との見通しも示した。中国は26日に発表した国防白書で「海上の戦闘準備」を強化する戦略を明記しており、米国は埋め立て地の建設施設が軍事拠点となることに強い懸念を示している。
(シンガポール=倉重奈苗、益満雄一郎)

文部科学省は4月、2016年度から中学校で使用する教科書の検定結果を公表した。社会科では沖縄戦における集団自決における強制や軍命を記述した出版社がなくなった。これには検定意見が出ておらず、歴史的な事実が反映される結果となった。一方、現在使われている副読本には「軍の命令」を明記するなど、偏向記述が続いている。(那覇支局・豊田 剛)
教科書是正も偏向続く、中高生は基地問題で現実直視
沖縄戦についての教科書検定意見撤回を求める県民大会についてのコラムを掲載した副読本
1996年の中学歴史教科書検定では8社のうち6社が集団自決の強要性を明記したが、2001年と06年には2社に減少していた。また、今回の検定結果、地理ではすべての教科書に尖閣諸島の記述があり、領土問題のテーマの分量はほぼ倍増した。
一方、高校歴史教科書検定では06年、「沖縄戦の実態について誤解する恐れのある表現」「軍命の有無は断定的な記述を避けるのが妥当」として5社に検定意見が付いた。これを受け、集団自決の軍命の記述が削除された。その結果、県内の教育界などから反発が起こり、翌年9月に宜野湾市で「教科書検定意見撤回を求める県民大会」が開催された。
元沖縄戦守備隊長と遺族が、作家の大江健三郎氏と岩波書店を名誉毀損で訴えた裁判(大江・岩波訴訟)では、軍命令について「隊長命令は証明されていない」「証拠上断定できない」との判断が示された。
文科省は昨年1月、「未確定な時事的事象について断定的に記述していたり、特定の事柄を強調し過ぎていたり、一面的な見解を十分な配慮なく取り上げていたりするところはないこと」と教科書記述の基準を示した。
しかし、教育現場でこの基準を遵守(じゅんしゅ)した教育が行われているとは限らない。
沖縄県教育委員会が出版した副読本「高校生のための沖縄の歴史」は記述に正確性を期すために集団自決の軍命の記述を削除した。2000年代前半ごろまで高校の選択科目で使われていたが、2007年の教科書検定で軍命がクローズアップされると、この副読本が使われなくなった。
だが、それに代わって現在、使われているのは沖縄歴史教育研究会顧問で歴史教育家の新城俊昭氏が著した「琉球・沖縄史」だ。
同書には「日本軍による直接・間接の命令・誘導によって『強制集団死』がおこりました」と書かれている。さらに、「教科書検定意見撤回を求める県民大会」についてのコラムを2㌻にわたって紹介。
「強制集団死が日本軍の命令・誘導などでおこったことは、多くの証言によって裏付けられており、近年の研究でも軍の強制を否定する学説はみあたりません」と論じている。この副読本について、元校長の男性は「現在でも選択科目で使われているが、沖縄戦の記述は偏っていて正確性に欠ける」と指摘する。
沖縄歴史教育研究会と県高教組はこのほど、県内の高校生を対象に実施した平和教育に関するアンケートの結果を公表した。このアンケートは5年ごとに実施している。
沖縄戦を学ぶことについて「とても大切」「大切」と回答した生徒は計94・1%に上り、1995年からの調査で過去最高となった。
一方で、基地問題では県内で高まっているかのようにみえる反基地感情とは違う結果となった。普天間飛行場(宜野湾市)の移設先については、「分からない」が36・0%と最も多い。県外・国外が34・6%続いたが前回比で12ポイントも減少。「普天間にそのまま」は5年前から約6ポイント増え20・7%に達した。
同会顧問の新城氏は、「若者はインターネットの影響を受けている」と原因を分析したが、視点を変えれば、高校生は情報の取捨選択をしながら現実を直視していると言える。
「身近に沖縄戦について話してくれる人はいるか」との設問では、「いない」(43・1%)が「いる」(39・7%)を逆転した。戦後70年を迎え、沖縄戦の体験者が減り続ける中、沖縄戦をいかに事実に即して教育するかが問われている。
今年夏には各採択地区委員会が採用する教科書を決める。2011年には、八重山地区(石垣市、竹富町、与那国町)が公民教科書で保守系の育鵬社を採択したことで地元メディアや革新系団体が猛反発した。
竹富町が採択地区から離脱した今回、公民で引き続き育鵬社が選ばれるか、歴史でも保守系の教科書が採択されるかどうかが注目される。
