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八重山日報掲載の「パンドラの箱掲載拒否訴訟」傍聴記

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八重山日報に上原正稔さんの「パンドラの箱掲載拒否訴訟」の「第6回口頭弁論傍聴記が掲載された。 これは同紙に3月21日から24日まで4回連載だが、以下にその全文を2回に分けて紹介する。これは八重山日報のウェブサイトでも読むことが出来る。

            ☆

ドキュメンタリー作家上原正稔の挑戦2 第6回口頭弁論傍聴記  

 3月13日「パンドラの箱掲載拒否訴訟」の第6回口頭弁論が那覇地裁で行われた。地元の有力紙がその新聞に長期連載をしていたドキュメンタリー作家により「言論封殺」で訴えられたという沖縄では異例の裁判沙汰を、沖縄メディアはまるで歩調を合わせるように完全黙殺を続けている。昨年の2月に第1回口頭弁論が開始し、すでに1年以上も経過しているにもかかわらず、この裁判ついて報じる沖縄紙は皆無なのである。
 当然のことながらこの裁判のことを知る県民はほとんどいない。13日の第6回口頭弁論についても翌14日の沖縄2紙がこの裁判については1行の報道もないのは予想通りである。
 当日は29席の傍聴席のほとんどを原告上原氏の応援団が占め、一方の被告側は前回は欠席したI主任弁護士を含む3人の代理人のみが出廷し、被告のR紙が出廷しないのは過去6回の口頭弁論を通じて同じである。原告側は、代理人の徳永弁護士と原告上原氏の2人が出廷し、通常なら代理人の意見書、証拠書類、当事者の陳述書などは代理人同士の書類の交換のみで終了するとの事だが、今回も原告の上原氏の希望を裁判長が認め、提出済みの陳述書を法廷で読み上げた。
 昨年2月の第1回口頭弁論でも上原氏は、陳述書の提出だけでは納得できず被告弁護団に向かって陳述書を読み上げたのだが、いかにも異色のドキュメンタリー作家上原氏の面目躍如で、型破りの陳述であった。 裁判とは法廷を舞台に原告と被告が丁々発止と渡り合うもので、原告が被告を語気鋭く糾弾するのはテレビの法廷ドラマなどでお馴染みのシーンだが、上原氏の場合は攻撃する相手のR紙が欠席したせいなのか、代理人のI弁護士に怒りの矛先を向けた。上原氏が特にI弁護士に名指しで批判の矛先を向けるのは代理人としては、ある意味、お門違いと言いたくもなるだろうが、これに訳があった。
 I弁護士はR紙の社長を務めた沖縄の代表的ジャーナリスト故I・H氏のご子息であり、上原氏はI・H氏を生前、個人的に知っており、ジャーナリストとして尊敬していたというのだ。I・H氏の人となりを個人的に知る上原氏なればこその上原氏独特の代理人批判であった。 上原氏がR紙の隠蔽体質に対し怒りをもって提訴に踏み切った心情を知る意味で参考になるので、上原氏が法廷で読み上げた陳述書の全文を次に引用する。
 ≪「今の新聞人はしっかりしろ」戦時下の新聞記者は語る 上原正稔
 2008年の夏のことだが、ぼくは友人であった高嶺朝一新社長に例の四人組の理不尽な?リンチ事件?については一切触れず、「ニューヨーク・タイムズのような立派な新聞を作ってくれよ」と激励した。戦時中、ニューヨーク・タイムズはアメリカの新聞全てが日本人を「ジャップ」と呼ぶ中で唯一「ジャパニーズ」と呼んだ公正高潔な新聞だった。しかし、高嶺はこれまで指摘したように「パンドラの箱を開ける時」の最終回をボツにするという悲しい暴挙に出たのである。このような行動がいかに愚かであるかをぼくは第9話「生き残った新聞人は証言する」で具体的に示したつもりだった。
 ぼくは第6海兵師団アクション・リポートと第301CIC報告書の中の捕虜となった沖縄の新聞人の尋問調書を取り上げ、かなり詳しく戦時中の新聞社の悲しき実態を伝えた。又吉康和、高嶺朝光、豊平良顕、I弁護士秀意ら戦前戦後を通じて沖縄の新聞報道で著名な人々は深く反省し、新しい新聞を作るために「報道の自由」がいかに大切であるかを訴える姿を伝えた。その中で、ぼくは次のように書いた。「今、戦没新聞人の碑に十四人の名が刻まれている。彼らの死を無駄にしないために生き残った『新聞人』は新聞を復活させた。新聞人として最も大切なものを掲げて。それは『報道の自由』だ。」その最後に「アメリカ軍G2戦時記録」で発表した「捕虜の嘆願書」を引用した。
 同時に第9話は今、裁判の中でR紙が主張する「新しい資料だけ」でなく必要とする様々の資料を使っていることを示している。今、新聞社自身が赤松嘉次さんと梅澤裕さんの汚名を晴らそうとする上原正稔という作家を弾圧している姿を深く憂慮するものである。
 戦後、沖縄の新聞の顔であり、声であった豊平良顕、I弁護士秀意のお二人がご存命ならば「今の新聞は大政翼賛の下のぼくらの新聞よりヒドい。赤松さんと梅澤さんに直ちに謝罪して、やり直せ」と一喝することは目に見えている。≫ 上原氏の応援団は、裁判終了後、護国神社の会議室に移動し上原氏と徳永弁護士による裁判経過の説明を受けた。説明の後の活発な質疑応答が、応援団のこの訴訟に対する意識の高さを物語っていた。

■裁判の争点
 上原氏の「パンドラの箱を開ける時」の連載は07年5月26日に始まり、第1章は6月16日に終わった。当初、提訴されるなどとは予想だにしていなかったR紙は、続く第2章は翌週の6月19日から始まる旨の上原氏の掲載予定に合意をしていた。 上原氏は、16日には19日から掲載予定の原稿を担当者のM記者に既に提出済みであった。その時、原稿を読んだM記者は、「よく出来ていて興味深いですね」と、上機嫌で読後の感想を述べた。M記者はその直後、土、日と週末を利用し上京しているが、不可解なことに、東京から帰社するや上原氏に対する態度を豹変させることになる。
 土、日を利用してM記者は東京で一体誰と会い、誰に何を入れ知恵され、態度を一変させたのか。東京にて何者かと面談したM記者は帰社後、直ちに上原氏を電話で呼びつけ「原稿は社の方針と違う」という一方的理由で掲載拒否を言い渡すことになる。
 掲載予定日の前日の6月18日、呼び出された上原氏がR紙に行くと、待ち受けていたM記者に5階へ連行される。 5階の会議室では、待機していた別の3名の記者に取り囲まれるように着席させられ、およそ1時間に及ぶ上原氏が言うところの「集団リンチ」を上原氏は4人の記者から受けることになる。M記者は上京前に原稿を読んだときとは別人のような不機嫌な顔で原稿を差し出し「これはストップする」と一方的に上原氏に通告した。理由を問いただすと、「R紙の方針に反する」というのだ。後になって上原氏が「R紙の方針に反する」という理由は「言論封殺である」と訴状に記すと、R紙側は前言を翻し原稿の中身が「(96年の)沖縄戦ショウダウンの中身と同じだから」と、理由を変更している。つまり「社の方針で掲載拒否した」のであれば新聞社としては致命的ともいえる言論封殺を自ら認めることになるのを自覚したのだろう。そこで急遽「同じ内容の原稿なので掲載拒否した」と編集上の問題に矮小化したのである。

■担当記者が豹変した訳
 「慶良間で何が起きたか」の原稿を読んで「よく出来ていますね。興味深いです」と読後感を述べた担当記者が、僅か2日の東京出張から帰社すると同時に掲載拒否を一方的に宣告した理由は、その年2007年の社会的背景を知る者なら容易に想像できる。 当時、大江健三郎、岩波書店を被告とする「沖縄集団自決訴訟」が係争中であり、被告である岩波書店がR紙に連載中の「パンドラの箱が開く時」に注目していたとしても想像に難くはない。 特に19日から始まる第2章「慶良間で何が起きたか」については事前に紙面で予告もされており、当該裁判の当事者でもない筆者が興味を持つくらいだから裁判の当事者である岩波書店が、その内容に関心を示さない方が不自然だとも言うことができる。 あくまで筆者の推測ではあるが、岩波書店側がR紙の上原氏の担当記者に接触し、事前に第2章「慶良間で何がおきたか」の内容を知るように工作したとしても何ら不思議ではない。 「慶良間で何が起きたか」には係争中の「集団自決訴訟」の核心とも言える「慶良間の集団自決」における「軍命の有無」についての記述があると思われるからだ。
 岩波書店が担当のM記者を週末を利用して東京に招聘し上原氏の原稿内容を事前に知ることが出来たとしたらどのように行動するか。筆者の推測が正しいのを裏付けるようにM記者は東京から帰社後態度を一変し、上原氏の原稿の掲載拒否を一方的に通告しているではないか。
 M記者は上原氏の原稿を拒否した「功績」が認められたのか、その後R紙の編集委員に出世し、さらにその直後岩波書店から自著を出版するという手土産を持って沖縄国際大学教授に就任している。最近左翼批判の著書を発刊したため理不尽にも沖縄国際大学講師の職を辞任に追い込まれた(本人の談)惠隆之介氏によると、沖縄国際大学教授の年収は約1000万円にも及び琉球大学教授でも沖国大への移籍を望む教授が多いという。
 連載中の上原氏の「パンドラの箱が開く時」を唐突に掲載拒否した担当記者の暴挙も、R紙にとってはイデオロギーを守るための賞賛すべき功績であったようである。原告の上原氏は現在でも、あくまでもR紙の「言論封殺」を主張しているのに対し、被告のR紙は「同じ内容の原稿なので掲載拒否した」と編集・技術上の問題に摩り替え、別の土俵へと逃げ込もうと必死なのが現状である。
(つづく)

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