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まだ言い逃れようとしている朝日新聞

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朝日新聞2015年6月27日付朝刊の「パブリックエディターから」(左下)が取り上げた2014年6月15日付朝刊1面記事

朝日新聞2015年6月27日付朝刊の「パブリックエディターから」(左下)が取り上げた2014年6月15日付朝刊1面記事 PR <iframe id="aswift_0" style="position: absolute; left: 0px; top: 0px;" name="aswift_0" frameborder="0" marginwidth="0" marginheight="0" scrolling="no" width="634" height="60"></iframe> ,2015年6月30日

6月25日の自民党の若手・中堅議員の勉強会における作家・百田尚樹氏の発言が大きな波紋を広げていますが、いまひとつ新聞に関する大きな動きがありました。昨年6月15日付け1面トップの集団的自衛権に関する誤報について、朝日新聞側から27日付けの紙面でひとつの「釈明」が行われたのです。

記事は朝日新聞のパブリックエディターの一人・小島慶子さん(タレント、エッセイスト)の署名原稿で、オピニオン面(16面)の下側に「(パブリックエディターから)安保、正確な情報の提示を」という見出しのもとに掲載されました。

あまりにも下の方にあったもので、日本報道検証機構(Gohoo)の楊井人文代表からの連絡で初めて気づいたくらいでした。朝日としても、目立つ場所に掲載するのには社内的な抵抗があったり、気が引けたのかもしれません。

パブリックエディターは今年4月、朝日新聞が読者と誠実に向き合っているかについて自己検証するために設けた制度で、小島さんのほか、河野通和さん(新潮社『考える人』編集長)、高島肇久さん(元NHKキャスター)が委嘱されています。

少し長いですが、小島さんの署名記事をご紹介します。

パブリックエディターから 小島慶子 安保、正確な情報の提示を

…(略)…

 私は後方支援の危険を訴える見出しの左側につけられたタイトルカットに注目しました。日本列島の図柄をバックに太字で「集団的自衛権」とあり、左脇に黒地に白字で「海外では」。記事の前文と結びに「集団的自衛権をめぐる海外事例」という文言もありますので、読者は「これは『集団的自衛権を行使したドイツでは、後方支援で死者が出た』という記事だな」と思うでしょう。朝日新聞の編集責任者である長典俊ゼネラルエディター(GE)は「集団的自衛権から集団安全保障へ移行した中、後方支援でも戦闘に巻き込まれた独軍の事例を紹介した」と説明。そうであれば、移行の過程や「集団的自衛権と集団安全保障の違い」について詳しい説明が必要です。
 私は、朝日新聞は昨年の一連の問題を反省し、「読者がどのような目で朝日の報道を見ているか」ということに、もっと敏感になるべきだと思っています。この記事では「適切な説明を省いて、集団的自衛権を行使したら死者が出た、と読者に印象付けようとしたのでは?」と不信感を持たれても当然でしょう。いま読者にとって一番大切なのは、正確な知識に基づいて日本の安全保障のあり方について考えること。会議ではPEから「読者の理解に役立つよう、後方支援の実態や安全保障の種類について大型記事などで改めて丁寧に解説するべきだ」と提言し、長GEは「タイミングを見て、海外の現場ルポなどで、後方支援の問題を改めて取り上げたい」と発言しました。
 その後、5月28日の国会審議で、PKO協力法改正案について共産党の志位和夫委員長がドイツのアフガン派兵の例を挙げ、自衛隊が戦闘行為に巻き込まれる懸念を表明。朝日はその発言を用いる形で、30日の記事で独軍の事例を改めて紹介した上で、「昨年6月の記事では、独軍のアフガン派遣全体が集団的自衛権に基づくという誤解を招いた」などと添えました。読者からは「過去の記事も載せるべきだ。何が問題か分からない」という声が寄せられ、PEも「説明不足で読者に不親切だった」などと評しました。
 なぜ中途半端な説明になったのか。長GEは「PEの発言も踏まえ、丁寧にリアルに伝えるのが大事だと判断し、海外ルポを準備していた。しかし国会で話に出たので、急きょ1年前の記事のこともふれる形で説明した」「これからは読者の声に素直に、敏感に反応した記事を出していきたい」と答えました。安保法制問題が続く中、今後朝日がどのような報道をするのか、注視していきます。

朝日新聞2015年6月27日付朝刊オピニオン面

小島さんの論考はしごくまっとうなものです。その小島さんをパブリックエディターに起用し、誤報が生じた経過にまで踏み込んで検証した署名原稿を掲載したことで、朝日新聞の改革への姿勢も、少しは期待してよいものがあると思わせる部分がないではありません。

しかし、まだ納得できないのです。「この期に及んで」という印象さえあります。それは、朝日新聞社としての訂正と経過説明がないからです。外部の有識者(パブリックエディター)に署名原稿を書かせ、それを掲載したとしても、まだ「誤報した訳ではない」「訂正した訳ではない」「外部の人が書いた署名原稿だから」と言い抜けられる余地を残しているからです。

朝日新聞側の釈明について、小島さんは「朝日新聞の編集責任者である長典俊ゼネラルエディター(GE)は『集団的自衛権から集団安全保障へ移行した中、後方支援でも戦闘に巻き込まれた独軍の事例を紹介した』と説明」と記しています。そうであれば、なぜ小島さんが言うように「移行の過程や集団的自衛権と集団安全保障の違い」について説明できないのでしょうか。この移行過程については、時系列に整理すれば簡単に確認できるもので、昨年6月19日号に西恭之氏(静岡県立大学特任助教)がエビデンスを記したとおりです。

こんな簡単な作業が抜けていた結果の誤報ということであれば、取材がずさんだったといさぎよく認めるべきです。将来、会社の幹部になっていく執筆記者に傷がつかないように庇い、日本新聞協会の新聞倫理綱領にある「新聞は歴史の記録者」という使命に背き、読者と誠実に向き合う姿勢に欠ける限りは、何を言っても信用してもらえないでしょう。

いまひとつ、「歴史の記録者」として誤報に基づく国会質問があった点も、忘れてもらっては困ります。この点についても、「○○月△△日の××議員の『□□』という質問は、朝日新聞の誤報に基づくものであり、歴史に対する責任から訂正する」との記事を掲載し、いつでも論文などに引用する研究者などが検索できるようにして初めて、新聞の使命を全うしたことになると思います。

朝日新聞の意識と体質の改革は、かなりのところまで進んでいると思いたいのですが、まだまだ信じる訳にはいきません。今後の取り組みに注目しています。

(この記事は、会員制メールマガジン『NEWSを疑え!』第408号(2015年6月29日号)より了承を得て一部転載しました。)

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