土砂搬入規制条例案を提出、懸念される那覇空港工期遅れ
翁長雄志(おながたけし)知事は昨年12月の就任から半年を迎えた。米軍海兵隊の普天間飛行場の早期返還と名護市辺野古への移設を進める日米両政府と対立し、「ありとあらゆる手段で」移設を阻止する姿勢を続けてきた。県議会では辺野古移設阻止を念頭に置いた埋め立てのための土砂搬入を規制する条例が提案され、可決される見通し。翁長知事の政府との対決姿勢や土砂搬入規制が県経済を冷え込ませないか懸念されている。(那覇支局・豊田 剛)
翁長知事は半年の間で、安倍晋三首相、菅義偉官房長官、中谷元防衛相と会談。先月3日には米国のハワイとワシントンを訪問した。いずれの会談・訪問も辺野古移設反対を訴えるのが目的。ワシントンでは国務省と国防総省の担当者、シンクタンクなどに反対の意思を直接伝えたが、米側は「すでに解決済み」との考えを示し、具体的な成果はなかった。
「あらゆる手段で移設反対」を公言する知事は、仲井真弘多(なかいまひろかず)前知事が承認した辺野古埋め立ての撤回・取り消しを実現するため、就任して間もなく弁護士と環境学者で構成される第三者検証委員会を発足させた。7月にも検証結果が出る見通しだが、法的瑕疵(かし)がない場合でも、承認撤回の方向で検討することが見込まれている。
また翁長氏は3月、辺野古の移設作業を停止しなければ岩礁破砕許可を取り消すと指示した。沖縄防衛局が設置したコンクリート製の「トンブロック」が岩礁を傷つけているとされる問題で、県が岩礁破砕許可を出した区域の外であることを問題視。防衛省は行政不服審査で指示の効力を一時的に停止させた。
それだけでは終わらない。16日に開会した県議会6月議会定例会では、社民、共産など革新系与党6会派が県外産土砂の搬入を規制する条例案を提出した。これは埋め立て資材に混入した特定外来生物の侵入を防ぐ目的で、事業者に対し、搬入計画や防除対策を県に届け出るよう義務付けるもの。7月10日の議会最終本会議で採決されるが、与党の賛成多数は確実視されている。
防衛省沖縄防衛局は、辺野古沖の埋め立てに使用する土砂を約2100万立方㍍と想定。土砂の7割近くを九州など県外で確保する予定だ。
与党議員は、条例案は特定の事例として「那覇空港滑走路と辺野古埋め立てを想定している」と認めた。普天間飛行場の辺野古移設阻止を目的とした条例案で、必要な土砂の調達を妨げることは「ありとあらゆる手段」の一つと認識している。
「辺野古移設阻止のためならば何をしても許されると思っているのだろうか」と自民党県連は翁長知事と与党のやり方を批判。「こうした条例は全国でもいまだかつて例がない。特定の事例を想定した条例案は建設業者をはじめ県経済に影響を与えることが予想される」として、議会で徹底抗戦する構えだ。
南西諸島安全保障研究所の奥茂治所長は「県の検査官が那覇空港用の埋め立て土石なら簡易な検査をするだけで、辺野古の場合は難癖を付ける恐れがある。要するに辺野古移設に反対するための条例だから、それぐらいの行動は容易に予想される」と分析する。
那覇空港がある豊見城(とみぐすく)市は条例案によって第二滑走路の工期遅れを心配する。宜保晴毅市長や市議団らは工事現場を視察し、進捗(しんちょく)状況を確認した。市議らは「条例により沖縄進出を考えている国内外の企業が二の足を踏み、沖縄経済が冷え込むのではないか」と懸念を表明した。
知事就任の会見では「辺野古新基地をつくらせないことを県政運営の柱にしたい」と強調した。
「他の都道府県の首長同様、子供やお年寄り、まちづくりのために全力を尽くしたいが、基地に時間が割かれ過ぎる。就任して約5カ月、仕事の8、9割は基地。それ以外に経済、福祉、教育に触れる時間がない。基地問題だけで知事職を全うしていると思うぐらいだ」
5月9日に中谷元防衛相と会談した時、こう述べた。
翁長知事が反基地一辺倒の政策・言動を取っている結果、県経済、福祉、教育がなおざりにされないだろうか、県民の不安が高まり始めている。
翁長知事の半年間の言動【2014年】
12月10日 知事に就任、あいさつで前知事の埋め立て承認を批判
12月14日 衆院選沖縄選挙区で翁長氏を支える勢力が全4区で勝利
【2015年】
1月26日 辺野古埋め立て承認を検証する第三者検証委員会を設置
2月16日 辺野古沿岸のコンクリートブロック設置で沖縄防衛局に変更停止を指示
3月23日 沖縄防衛局に埋め立て準備作業の停止を指示
3月24日 沖縄防衛局が作業停止指示に対して不服申し立て
4月5日 菅官房長官と会談、辺野古移設をめぐって平行線「上から目線」と批判
4月17日 安倍首相と会談、辺野古移設を進めるのは「政治の堕落」と批判
5月9日 中谷防衛相と会談、政府の姿勢を「高飛車」と批判
5月17日 辺野古移設に反対する大規模集会で登壇
5月20日 日本記者クラブと日本外国特派員協会で記者会見
5月25日 第三者委員会の提言次第で埋め立て許可「取り消し」と発言
5月27日~6月3日 米国のハワイとワシントンを訪問、辺野古移設反対を訴えるも受け入れられず
6月1日 県庁内に辺野古新基地建設問題対策課を新設
6月11日 日本記者クラブ取材団の会見で「県の公益が国の公益を上回れば(埋め立て承認)撤回できる」と発言