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シリアへの空爆も辞さないという「戦争中毒者」のアメリカと、シリアに化学兵器があるという根拠はないので軍事介入に反対の「平和主義者」のロシアの外相会議の結果、シリアが保有する化学兵器を政治的な手段で廃棄させることで合意した。 その結果、米国によるシリアへの武力行使は当面回避される見通しとなった。 中国もこれを歓迎し「平和主義者」を装ったが、果たしてこれで一件落着なのか。
オバマの優柔不断とプーチンの「平和主義」が、シリアに武器隠匿の時間を与えただけではないのか。
ミュンヘン会議の教訓は生かされたのか。
化学兵器廃棄合意で米、シリアに履行徹底を要求
【ワシントン=山口香子】オバマ米大統領は14日、シリアの化学兵器廃棄に関する米露の枠組み合意について、「化学兵器の最終的な廃棄に向けた重要で具体的な一歩だ」と歓迎する声明を出した。
大統領は、その上で、「外交が失敗すれば、米国は行動する用意がある」として、シリア側に合意の履行徹底を求めた。
米国防総省のリトル報道官は同日、「現段階では、米軍の配置に変更はない。今回、軍事的な圧力は外交を前進させるカギとなっており、アサド政権が合意を履行することが重要だ」との声明を出した。
米軍は、シリア攻撃に備えてシリア西方の地中海に駆逐艦4隻などを展開させており、アサド政権が1週間以内に化学兵器を完全申告するかどうかなど、合意の履行状況をみて今後の対応を決めるとみられる。
(2013年9月15日20時09分 読売新聞)
☆
「話し合いによる平和的解決」を妄信する日本のマスコミはアメリカの武力行使が当面は避けられたことに対し、まるでプーチンが「平和の使徒」でもあるような報道をし、プーチンの外交的勝利のような報道をしている。
一方のオバマは一旦軍事介入を宣言しながら「平和主義者」たちの「イラクの過ちを繰り返すな」の声に躊躇し、プーチンに主導権を奪われたため内外に指導力のなさを印象つけた。 これは東アジアの鬼っ子北朝鮮や南シナ海の覇権や尖閣侵略を狙う中国に「結局アメリカは(イラクに懲りて)何もしない」という印象を与えたことになる。
つまりアメリカ恐れるにたりずということだ。
だが、シリアが化学兵器の保持ををあっさりゲロしたのは「アメリカなら武力行使もしかねない」という恐怖があったからだろう。
ロシアはイラクの例を挙げて、シリアが化学兵器を保有している「証拠がない」と反対していた。
⇒化学兵器使用「証拠ない」露は反発 対シリア、介入阻止へ徹底抗戦
<ロシアは、米国がイラク開戦の理由とした大量破壊兵器が見つからず、戦後のイラク情勢が不安定である点も挙げ、欧米の姿勢を批判している。>
だが、実際に化学兵器があることが判明した。
これはアメリカの強硬姿勢の賜物である。
ところがこれに言及するメディアは一つもない。
今後はシリアが合意に従がうかどうかにすべては掛かっている。
これまで北朝鮮でこの種の問題が発生すると、決まって国連で拒否権発動をするのは中国とロシアと相場が決まっていた。
今回、もしシリアが合意を無視した場合、アメリカは当然武力介入の議決を国連にもちこむだろう。
その場合ロシアや中国は拒否権発動はもはや不可能だろう。
イギリスは今回は「イラクの轍」ではないと判明した以上、アメリカの武力介入にフランスと共に参画するだろう。
プーチンや世界の「平和主義者」達は果たしてミュンヘンの教訓をど受け止めるだろうか。
当日記は、武力行使を断念したイギリスやプーチンの「平和主義」を欧州大戦前のミュンヘン会議の宥和政策に例えて、約2週間前にこんなエントリーをした。
昨日の産経紙が当日記より2週間遅れでミュンヘン会議の教訓を報じた。
少し遅すぎますよ、産経さん!
2013.9.15 03:12米国が軍事介入を決断するとき、常に積極策の「ミュンヘンの教訓」を採るか、慎重策の「ベトナムの教訓」を採用するかの岐路に立たされる。
1990年代半ば、クリントン政権のホワイトハウスでボスニア介入をめぐる激論が交わされた。当時のオルブライト国連大使が、慎重なパウエル統合参謀本部議長に「優れた米軍を率いている意味はなんなのですか。あなたはいつも軍事力が使えないことばかり話している」と激しく批判した。さらに「同世代の人々はベトナム戦争の教訓をあげるが、私にとってはミュンヘン会談なのです」とたたみ掛けた。パウエル議長は自著で「この時、私は金縛りにあった」と率直に書いている。
ミュンヘン会談とは第二次大戦開戦前年の38年9月、ヒトラーの呼びかけで英仏独伊の列強が、チェコのズデーテンランド地方をドイツに割譲する合意をいう。チェンバレン英首相は「戦争はミュンヘンで回避された」と喜んで帰国した。しかし翌年3月にはドイツがあっという間にチェコ全土を制圧してしまう。ミュンヘン合意はドイツの侵略を誘い込むだけだった。
◆根強い「イラクの後遺症」
チェコ生まれのオルブライト氏は、この教訓から米軍の武力行使に果敢な決定を求める。米国はセルビア人勢力に対する空爆を決行して各勢力を交渉のテーブルにつかせ、1995年11月、各派によるデイトン合意を引き出した。ミュンヘンの教訓が功を奏した事件である。
しかし、米国にはこれまでのミュンヘン、ベトナムという2つの教訓に対して「イラクの後遺症」が加わっている。
2001年の米中枢同時テロ9・11をきっかけに、米軍兵士がアフガニスタンの砂漠を越え、イラクの市街地でテロリストを討伐している間に12年が過ぎた。米国はこれら2つの戦争で6600人の犠牲者を出し、2兆ドルをつぎ込んで国力の衰退まで指摘される。
◆軍事オプション不透明に
そこにシリアの内戦が起きた。この4月にシリアによる化学兵器使用を受けて、米英仏が軍事行動を起こすとみられていた。しかし、英国議会がシリアへの軍事介入の決議を否決したころから、オバマ大統領も連邦議会に賛否を求めた。「イラクの後遺症」ゆえに、オバマ政権内に“オルブライト”がいなくなったのだろう。オバマ氏の優柔不断から、介入決断のタイミングがずれてしまった。
その間隙(かんげき)を突いて、ロシアが「化学兵器を国際管理に」との仲介案を出し、シリアがこれに飛びついて一転、軍事オプションは不透明になった。アサド・シリア大統領は言を左右にしながら化学兵器を隠匿する時間を稼ぎ出した。おそらく、国連決議を受けて査察団が行っても、政府・反政府両派から狙い撃ちされて満足な査察はできないだろう。やはり軍事介入が必要という事態に戻りかねない。
プーチン露大統領はシリア攻撃にはやるオバマ大統領にクセ球を投げて鼻を明かした。シリアの化学兵器も含めて兵器は大半がロシア製だから、依然として有力な武器輸出先は確保できる。そして、ロシアをけしかけた中国は「オバマ弱し」とほくそ笑んだに違いない。
この間にも、アジアでは中国が海空軍を増強し、宇宙戦、サイバー戦の能力を高めた。疲弊する米国の海洋覇権に挑戦を開始している。東シナ海で中国と対峙(たいじ)する日本にとっての気がかりは、同盟関係にある米国の指導力衰退である。軍事介入に消極的なオバマ大統領にとっては渡りに船の提案でも、米国の威信が低下したことは否めない。
◆「弱さ」がスキを生む
世界を主導する超大国が「弱い」と見なされることは危険が伴う。オバマ大統領が弱いと見なされれば、シリアへの最大の武器輸出国であるロシアと宗派の近いイランを利することになる。イラクやアフガニスタンのテロリスト復活にも勢いがつく。何よりも中国は、米国の失墜は「わが利益」とそろばんをはじくだろう。
しかし、アジア太平洋地域は、シリアの内戦と違って米国の国益に直接的に結びつく。日本は集団的自衛権の行使を可能にして、米国との同盟に双務性を持たせる必要があろう。安倍晋三政権は米国に限らず、遠い国と手を組んで近くの敵に二正面作戦を強いる「遠交近攻」外交を加速させる必要がある。日米同盟を土台として東南アジアや欧州へ筋交いを伸ばし、国家の“耐震性”を強くしよう。(ゆあさ ひろし)
★
■西村眞悟氏の時事通信9月15日号も、ミュンヘン会議の教訓に触れているので転載いたします。
ミュンヘンの教訓
No.892 平成25年 9月15日(日)
本日の産経朝刊に、湯浅博解説委員が「ミュンヘンの教訓が消えた」という論説を書いている。
その湯浅氏が指摘するミュンヘンの教訓とは、一九三八年(昭和十三年)九月のミュンヘンの宥和といわれる事件で、チェコのズデーデン地方を要求するドイツのヒットラーに、英仏伊の列強が、要求を聞き入れてやれば平和が維持されるだろうと考えて宥和し、同地方をドイツに割譲したことが、かえってヒットラーの侵略衝動に火をつけて、翌年三月のドイツのチェコ全土の制圧を誘い、ひいてはポーランド侵攻による第二次世界大戦勃発の出発点となったことをいう。
このミュンヘンで宥和して帰国したイギリス首相のチェンバレンは、ヒースロー空港に集まった群衆に対し、ヒットラーの署名した合意書を振りかざして、「平和を持ち帰った」とスピーチした。しかし、彼が持ち帰ったものは「戦争」であった。
よって、ミュンヘンの教訓とは、軍備を増強する独裁者に宥和することは、かえって戦争を呼び込む、従って、平和を確保する為には、断じて独裁者に宥和するなということである。
そこで、湯浅氏は、この度のアメリカのオバマ大統領のシリア攻撃に関する優柔不断は、ロシアの介入を招き、果てはロシアとシリアの化学兵器国際管理を合意することになり、ミュンヘンの教訓が消えたと述べているのである。
一九三八年のミュンヘンの宥和は、ヒットラーのチェコさらにポーランドへの侵略を呼び寄せた。
では、この度の宥和は何を呼び寄せるのか。
湯浅氏は、「ロシアは、依然として有力な武器輸出先を確保できる。そしてロシアをけしかけた中国は『オバマ弱し』とほくそ笑んだに違いない」、「何よりも中国は、米国の失墜は『我が利益』とそろばんをはじくだろう」と述べる。
つまり、この度の宥和が勢い付かせるのはヒットラーではなく中国共産党の独裁者とイラクやアフガニスタンのテロリストだと湯浅氏は暗示している。
斯様に、「世界を主導する超大国が『弱い』とみなされることは危険が伴う。」
そして、その「危険」は、東アジアの我が国に押し寄せる!(略)
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